材料の価格
主材料である漆は漆木の樹液を精製加工したものです
樹液である「生漆」は中国産が9割以上を占め国内産は2〜5%程度であり、国内産漆を使用している場合でも直接目に触れる表面(上塗り)のみに限られている場合が多い様です。 一本の漆木から採取できる樹液の量は200g前後と言われています。 この200g(200gですとチューブ入り・歯磨きチューブと同じ位)の生漆の価格は中国産で2〜3千円で販売されています。国内産はこの価格の9〜10倍となります。もちろん参考価格ですので購入単位や販売店により多少の前後はあります。 これは生漆の価格ですから「なやし」「くろめ」の精製加工した漆はもっと高額となります。
それでは一つのお椀を作るためにはどれだけの量を使用するのかが知りたくなります。しかし簡単には使用量の特定が出来ないのです。 例えば、お椀の形と大きさが色々あること、どのような塗り方(下地も含まれる)をするのかによっても変わります。 お椀の重量を測れば算出できそうにも思われますが、使われている木地の材質や乾燥状態は見た目では判定は困難であり、塗り方により幾度も「砥ぐ」工程が存在しますので使用量よりは目減りしているのです。朱色であれば「ベンガラ」等の顔料も含まれます。また加飾してあれば金粉や金箔なども加算されます。
木地については、指物(函のようなもの)と引物(轆轤引きした椀など)が有りますが唐物とも呼ばれる杢(もく)目の美しさが珍重される輸入材やケヤキ・朴など国内材など多くの種類があります。現在は輸入が禁止されている木や江戸指物に良く使われた良質な桑の木などは入手の難しい状況の材料もあります。 同一の木であっても、大きさや厚みでも価格は変わります。 指物の加工方法も箱を作る場合では組継ぎの方法などで多くの細工が必要な作り方があります。特に箱モノは底板と側板の継ぎ方で年月を経た時に継ぎ目が顕著となります。(ヤセが出ると云います)
制作時に十分乾燥させてから作業に掛かるのですが、板目が交差した継ぎ目が木地が痩せてくることで年月と共にはっきりと浮き上がってきます。明治時代以前の作であれば資料館・博物館などで確認することが出来ます。
加工の価格
一点ものの工芸品は別としても、漆器の生産は基本的に分業で工程毎の職能が受け継がれてきました。
工程を大きく分けると「木地」→「下地」→「塗り」→「加飾」となります。 通常それぞれの職人さんたちの工房で作業し次の工程に引き継がれます
生産地で ここまでは、すべて国内の産地で作る場合を述べています
現在、市場に流通している漆器は国内産とは限りません。原産国表示が明記されていても、木地のみ、下地まで、あるいは中塗りまでは海外(主に中国)で行い、直接目に入る上塗りや加飾は国内の産地で行われているものも在ります。品質が劣ると云う意味ではありません。
この様に組み合わせは幾通りも出来ます。これが最終的な価格の差となってきます
しかし、木も漆も生き物でその環境(生育と加工)の気候風土の影響を受けています。中国で使用するには問題が生じなくとも、現代の日本の気密度の高い都市住宅で使用した場合、同様に扱っていても問題が発生する可能性があります。
適正な価格とは 仮に、20工程の手間で作られた漆器があるとします。 上記の様にほとんどが人件費ということになりますが。一工程に五百円の手間賃(材料費込み)を支払ったとすると一万円の原価が最低限必要となります。 そして木地の代金が加算されます。木地も材料費と加工賃の合計です |